ソーシャルセンサーの行方 
その1:問いのたてかた

社会は今大きく変わろうとしている。成長も限界を迎え、人口も縮小、少子高齢化、ピークオイルと成長の時代から縮小の時代へと変わっている。山に例えるなら上り坂から下り坂を降りていく時なのだ。

上り坂と下り坂では歩き方は全く違う。山は上りより下りの方がずっと難しい。道にだって迷いやすい。上りはかならず頂点にたどり着くけれど、降りる時は、一本の道の間違えが、ふもとに降りる時には何十キロも離れた場所へとついてしまう事もある。そして何よりも下り坂は転びやすい。がむしゃらに勢いよく上るのと違って、下り坂では一歩づつ足下を確かめながら歩く必要がある。

社会構造は変わっている。それなのに企業は相も変わらず、前年度比を掲げ、売上の拡大を日々連呼している。消費への意識は随分と変わっているはずだ。これまで作り上げてきた大量生産を目標とした企業の仕組みは続かない。それは大量消費を前提につくられているが、資源やエネルギーの限界は、使い捨ての時代から、ものを長く大切に使う時代、あるものを工夫して暮らす時代へと意識を変化させている。

実は企業の中にいる「ソーシャルセンサー」達のジレンマは、こうした社会と企業のベクトルの違いから起きている。ソーシャルセンサーとは企業の中で社会との接点をうけもつ人達のこと。ソーシャルセンサーは、ユーザーの声に耳を傾け、社外の人達と接触し、時代の変化を読み取って行こうとすればするほど、社会と企業の溝の深さを思い知らされる事になる。

企業は、革新的な商品や技術を望んでいるものの、それはあくまで企業の文化や価値観の文脈の上で理解されるのだから、本当に革新的なことは企業においては異端になってしまう。異端をつくるだけでは企業にとっても個人にとっても幸せな事にはならない。

では一体どうしたらこのソーシャルセンサー達のジレンマは解消されるのだろうか。ソーシャルセンシングラボでは各企業のソーシャルセンサー達が集まってその事をずっと考えて来た。どうその溝を埋めていくのか、社会の価値観を企業の中にどう戻していくのか。ソーシャルセンサー自身が企業の中の異端にならないように、そして、結果、企業自身が社会の異端にならないようにと。

そこで行き着いた答えは、「問い」のたてかたに鍵があるという事。どちらが正しいかを考える「問い」ではなく、その相反する2つのベクトルを統合するための新しい第三の価値観を探す「問い」が必要なのだ。そのためには上りか下りか、右か左か、どちらかを選択するのでなく、どちらもありなのだと言う価値観をもっていたい。そして山全体を俯瞰する大きな視点が必要と言える。

山道を降りる時に突然視界が広がる風景を思い起こして欲しい。下界にひろがる川の流れや遠くの山を見渡せる時がある。今大事なのは、この下り坂を一緒に歩こうと仲間に声をかけるより、目の前に広がる悠久の自然の景色を見せてあげる事だ。理詰めで展開する是々非々から、そうしたことを抜きに体で感じて、自分達の立ち位置を理解する事が必要だ。

あらためてみんなに聞いてみたい。生産でも消費でもない、もうひとつのベクトルそれは何だろうか?(文/土谷貞雄)

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