生き残るためのセンサー

会社は、もっと社会に対して敏感になることが大事なんじゃないか。組織を維持することにエネルギーの大半をさくのでなく、もっと社会に開かれた存在になって、社会との関わりながら、社会の変化を察知しつつ、それに対応して生きていく。そういう生き方がこれからの会社には求められているのではないか。

社会というこの複雑で、常に変化しているとらえどころのないものをどう捉えるのか。その視点というか視座というのか、それなくして、どうやってこの社会の中で会社という生き物は生き残っていくことができるというのか。

 

― 生き物達のセンサー

全ての生き物は環境の変化を敏感にキャッチするセンサーを備えている。人間にだって、本来、そういうセンサーが備わっている。そのセンサーで、常に環境の変化をセンシングしながら、居場所を変えたり、身体を調整したりしている。意識するしないに関わらず、常に環境の変化に対してチューニングをすることで、生物というのはサバイブしているわけだ。

意外に思えるかもしれないが、生物というのはとても保守的なシステムだ。今日の自分と明日の自分が簡単に変わってしまっては、生物としてのシステムは成立しない。なので、できるだけ変わらないでいることが大事だ。例えば、哺乳類などの恒温動物では、一定の体温を保つように、汗をかいたり、逆に汗腺をしめて体温が奪われないようにする。これを恒常性維持(ホメオスタシス)と言う。

 

― 小さな変化と大きな変化

一瞬一瞬でそうやって身体を調整しながら、環境に適応し、生き残りをはかるのが、生物というシステムだ。そして、この小さな、いわば、「変わらないための変化」は、比較的安定的な環境の中で生物が生き残るために重要な能力になる。

この小さな変化が積み重なっていくうちに、例えば、食べ物の違いによって鳥の嘴の形状が変わるというような大きな変化が生まれることがある。これがいわゆる進化である。この進化の仕組みを、突然変異と自然選択で説明したのがダーウィンの進化論だが、トカゲに羽根が生えて鳥になってしまうような革新的な進化までが本当に突然変異と自然選択だけで説明できるのかは、実はまだよくわかっていない。例えば、今西錦司や清水博などの日本の生物学者達は、「飛びたい」という生物自身の意志なくしてトカゲが鳥になるような大きな進化は説明できないと、ダーウィン流の進化論に異を唱えてきた。

とまあ、進化の仕組みについては諸説あって決着がついていないのだけど、いずれにせよ、生物には、連続的な小さな変化と、断続的な大きな変化の、両方の能力が備わっていて、それが生き残りの基本になっている。そのことだけは確かである。そして、その変化の能力の根底にあるのが、環境の変化を察知する力なのである。

 

― 会社のセンサーって何だろう?

会社を生物に喩えるなら、会社にだってそういう変化の能力が必要だろう。そのためには、環境の変化を察知する能力が求められてくる。生物の身体に備わっているセンサーと同様のものが会社という組織にも必要ということだ。

では、一体、そういうセンサーをどうしたら会社に埋め込むことができるのだろうか?(文/井上岳一)

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