ソーシャルセンサーの行方
その3:矛盾の中に未来の鍵がある

第一回目にソーシャルセンサーは社会の課題と企業の課題の矛盾の中にいるということを書いた。社会の課題に目を向ければ向けるほど、企業の課題とぶつからざるを得ないのが、ソーシャルセンサーだ。とりわけ、エネルギーの限界から来る、ものを大切に、そして長く使っていこうという「下り坂」に向かう社会の意識の変化は、企業の売り上げ拡大という大命題とぶつかることになる。その時に大切になってくるのが問いのたてかただ。解けない問題を無理に解こうとするのでなく、かと言って解けない問題だからと問うこと自体を諦めるのでもなく、解けるように問いをたてて課題化していくこと。その問いのたてかたにソーシャルセンサーの役割と価値がある。

ではどのように「解けない問題」を「解ける課題」に変えていくのか。今回はこのことを考えてみたい。

禅問答のような言い方だが、その答えは無理に解こうとしないことだと思っている。相反する2つの方向性を無理に統合させるのでなく、2つのベクトルの間にある矛盾の距離や深さに目を向けて見ることのほうが大事なのだと思う。

そもそも社会と企業の矛盾というが、社会と企業という対立のさせ方自体が一面的であって、本当は社会の中に存在する矛盾もあるし、企業の中に内包する矛盾もある。多くの人が、ものの時代は終わった、消費の時代は終わったというが、その一方で、所得を上げたい、高価なものを持ちたい、他の人と違うものを持ちたいという欲求も常にある。それが人間であり、社会ではないだろうか。矛盾は常に、どこにでもあるのだ。

とは言え、社会の目線と企業の目線では見るものが異なってくるのは当然で、だからこそ社会を鏡にすると、企業には見えないことが見えてくるようになるのだといえる。ソーシャルセンサーは、そうやって社会を鏡にしながら、企業の視点では見落としがちなものを見ようとする。社会を鏡にしていると、社会が向かっていくべき理想の姿のようなものもおぼろげながら浮かび上がってくるだろう。しかし、それは企業の論理とは矛盾するものになりがちだ。その時、ソーシャルセンサーに求められるのは、あえて社会の理想と対立する概念を企業の中に見つけ出し、そこにある矛盾を浮かび上がらせることだと思う。

つまり、答えを出すためでなく、矛盾を浮かび上がらせるために問いをたてるのである。問いをたて、そこで浮かび上がってくる矛盾を見つめることから、企業のより発展的な未来を発見するためのプロセスは始まるのだと考えてみよう。

そう考えると、企業の中にいながら、企業と社会との間の板挟みになって悶々としているソーシャルセンサー達の肩の荷もおりてこないだろうか。社会と企業の間にある矛盾は確かに悩ましい。だが、その矛盾を一挙に解決しようとする必要はない。問いをたて、矛盾を浮かび上がらせ、その矛盾の距離や深さをまずは見つめてみる。そうやって矛盾を矛盾として認識することの中に、社会と企業の問題を解決する糸口が隠されているはずだと思うのだが、どうだろうか。(文/土谷貞雄)

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