Social Sensing Labのメンバーでもある東京大学増田直紀
准教授によるネットワークの科学の啓蒙書である。
Social Sensingを考える上でネットワークの科学の知見は
示唆に富むが、中でも有用なのは、「弱い紐帯の強さ」
(Strength of weak ties)という考え方ではないかと考え
ている。
これは1973年に社会学者のマーク・グラノベッターが発表
した研究成果で、四半世紀を経て興隆したネットワークの
科学にも多大な影響を与えたものだという。
では「弱い紐帯の強さ」とは何か。
例えば、転職したくて良い職を探しているとする。
こういう時、誰に相談するかと言えば、まずは信頼できる
友人とか家族だろう。
でも、実は、普段から情報交換しているような人々からは
案外と有用な情報は得られず、むしろ、「いつもはあまり
密接につながっていない知人」のほうが有用な情報をもた
らしてくれるものなのだ、というのがグラノベッターの研
究が明らかにしたことである。
「あなたと近くなく、関係も深くはない知人は、あなたと
異なる環境の中で異なる価値観を持ち、異なるコネを持っ
ていやすい。もし腹を割って話してみたら実はあなたと意
見があわない人かもしれないが、そこまで深入りせずに連
絡が保たれていれば、あなたとは違う視点から新鮮な情報
を運んでくれる」(本書p.55)
確かに。そう言われればそうだなと経験的にも納得できる。
こういう近くも深くもない人間関係を「弱い紐帯」とグラノベッター
は名付けたのである。
この「弱い紐帯の力」という考え方を企業に当てはめた時、
二つの側面からの示唆が得られると考える。
一つは、Social Mediaの活用方法である。
どうもSocal Mediaというと、自社のファンを生み出すため
のツールに思われている節があるが、「弱い紐帯」の考え
方からすれば、熱心なファンをつくることよりも、生活者
と緩くつながり続け、そこから何か有用な情報が得られる
かに注力したほうがいいということになる。
Social Mediaは「弱い紐帯」をキープするのにうってつけ
のインフラなのだ。
もう一つは、できるだけ企業の価値観とは遠い人々と関係
を作ることの価値である。
例えばNGOやNPO。企業とは価値観が違うから話が合わない
と企業の人々は考えるが、「弱い紐帯」の考え方からする
と、話が合わない人達と話すほうが、有用な情報に出会え
る確率が高まるのである。
わかり合う必要はない。でも、緩やかな関係でつながって
いれば、いざという時、有用な情報をもらえる可能性が高
いのである。
自分とは遠い世界の人々との緩い関係の中で出会える情報の価値。
これはSocial Sensingのキーとなるアイデアの一つだ。