ウェブコミュニティをつくって消費者をファン化して、というのはよく聞く話だ。しかし、今の顧客を熱心なファンに育てて得られるものよりも、自社の顧客でない人とどう付き合うかを考えることのほうが大事ではないか。
「弱い紐帯の強さ」ではないが、自分から遠い人、関係の深くない人のほうが有用な情報を持っている可能生が高いからだ。
最近のウェブコミュニティは、商取引を介さない関係性を構築することに力を注いでいるように見える。例えば、Nike+が好例だ。Nike+はNike顧客のためのサイトではなく、あくまでもランナーのためのサイトだ。Nikeの製品を使っていようがいまいが、Nike+の利用はできる。そして、利用していてもNikeの製品の宣伝はされない。あくまでも走ることを楽しむためのサイトなのだ。
しかし、Nike製品を使っていなかったNike+の利用者のうち、40%はNike製品を購入するようになったという。
これは驚くべき数字だ。
商取引を介さない関係性を構築することが、長い目でみると商売につながるのである。だから、これからの企業は、従来の顧客だけを向くのではなく、商取引を介さない関係性でより広く生活者一般とつながることを優先すべきなのだ。
そのことをドラッカーはずっと前に気づいていた。
「ほとんどあらゆる組織にとって、もっとも重要な情報は、顧客ではなく非顧客(ノンカスタマー)についてのものである。変化が起こるのはノンカスタマーの世界である」(P.117)
「われわれは外の世界については、文字どおり何も知らない。しかも、たとえ業界リーダーの地位を占めていたとしても、同種の財やサービスを購入している者の過半は自社の顧客ではない。30%の市場シェアであれば巨人である。しかし、それでも70%は自社のものを買ってくれていない。われわれはその70%について何も知らない。
彼らノンカスタマー(非顧客)こそ、来るべき変化を知らせてくれる貴重な情報源である。なぜか。この40年間に見られたあらゆる業界における変化を調べるならば、そのほとんどが既存の市場、製品、技術の外の世界で起こったものであることがわかる。
したがって、いかなる事業にあろうとも、トップマネジメントたる者は、多くの時間を社外で過ごさなければならない。ノンカスタマーを知ることは至難である。だが、それだけが知識の幅を広げる唯一の道である」(p.142-143)
ドラッカーは、「来るべき変化を知らせてくれる貴重な情報源」として「非顧客」のことを位置づけている。
ではどうやって貴重な情報源たる非顧客とつながり、情報を得るか。そこにSocial Sensingの役割があるのだ。
なお、「非顧客」の他にも、今後の社会においてNPOが極めて重要な存在になることを指摘した点でも本書は示唆に富む。