公開ラボ@シブヤ大学
その4:喜劇と悲劇の分岐点

「喜劇と悲劇の分岐点」
臨床道化師/日本クリニクラウン協会事務局長兼芸術監督 塚原 成幸さん

「クリニクラウン」とは、長期間闘病生活を送る子ども達の生きる力を高めるために、
全国各地の医療施設を定期的に訪問する道化師のことです。

20数年間プロの道化師として舞台を中心に活動されてきた塚原さんは、ちょうど10年前、
医療現場の中で子どもたちのQuality of life を支えようと考えるようになり、
クリニクラウン(日本語では臨床道化師)になられたそうです。

http://www.cliniclowns.jp/index.html

 

臨床の現場で、困難な状況を生きる子ども達と向き合ってきた塚原さん。
臨床道化師の視点からくるそのお話は、ソーシャルセンシングの大事な要素である
人や社会との接し方、関わり方についてのヒントに溢れていました。

 

-ユーモアを通じたコミュニケーション

まずお話されたのは、ユーモアや笑いの大事さ。
ユーモアを通じたコミュニケーションは、人間と人間との関係性、
絆というものを深め、生きることそのものに対する興味、
モチベーションを高めてくれる効果が期待できるのだそうです。

それは、阪神・淡路大震災以降、日本各地の被災地で活動されてきた
塚原さんの体験に基づいています。
被災地の方々は本当に力強い、前向きな笑顔を見せるそうですが、
その笑いは日常の笑いと質が違って、足元から大地を揺り動かすような、
体の内面から絞り出るような笑い方なのだそうです。
そういう笑いと出会って、「人間は生きるために笑う、いや生き抜くために笑う」
ということを教えられた塚原さんは、どんな状況の中でも笑いを奪うことはできないし、
そこに人類の希望があるのではないかと考えるようになったそうです。
それは、「人間というのは楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる」
という確信につながります。

(写真)シブヤ大学提供

 

-しっかりと、向き合う

さて、遊び心とユーモアコミュニケーションを通じて子どもたちに笑顔を届ける
クリニクラウンですが、出迎える子ども達の反応は必ずしもウエルカムではなく、
「ほかに行くとこないの?」「あんたら暇だね」
と辛辣な言葉を返してくる子達もいるのが現実とのこと。

そんな時、塚原さんは、しっかりとその子と向き合って、
「病気に興味があるわけでも、仕事だから来たわけでも、病院に関心があるわけでもなく、
○○君がここにいるから会いに来たんだよ」と静かな声で言うのだそうです。
すると、さっきまで攻撃的だった子が、
戸惑いながらもこちらの気持ちを感じ取ってくれるのがわかるそうです。

「自分が言われたくないことを言ってくる人は、
実は深いところで人間的な心のつながりを求めているのではないか」
と塚原さんは言います。

おそらく子ども達は「みんな自分にではなく、病気のことにしか関心がない」
と思っていて、そういう寂しさが、
知らず知らずのうちに他者を拒絶するような言動を生んでしまうのでしょう。
ですから、「病気ではなく、自分のことに関心を持ってくれる人がいるんだ」
と感じ取ることが新しい人間関係がはじまるきっかけになることもあるのです。

 

-道化的なものの見方・考え方

20数年間道化師として生きてきた中で、塚原さんはクラウンシンキングとでも言うべき
「道化的なものの見方・考え方」を学んだと言います。
その代表が「苦手なものは財産、不器用は才能。面倒なことに笑いがあふれている」
という考え方でした。
コメディの原点は、人間が自分の苦手なことを克服するために奮闘する姿にあるそうです。
となると苦手は財産だし、不器用は才能ということになります。
また、笑いとは本来面倒なことをやりきった後や大変な困難を乗り越えた安堵感から
発生する感情だそうで、面倒なこととは切っても切れない関係にあることになります。

もうひとつは「まず笑われてみる」ということです。
大人になると、「笑われる=馬鹿にされている感じがする」と考える人が多くなりますが、
笑われてみることに恐れを抱かなくなると、自然と足取りは軽くなり、
一般常識からも固定化した習慣からも自由になれると塚原さんは言います。
だから、人生をより自由に創造していきたいと思う人は笑われ上手になるべきなのです。

楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる
面倒なことに笑いがあふれている
まずは笑われてみる

これらの逆説的なものの見方・考え方は、道化師として、クリニクラウンとして、
笑いやユーモアをずっと大事にされてきた塚原さんならではのもの。
いわばCLOWN(=道化師)的な生き方に根ざしたものです。

これに対するのが、CLOWNのLをRに替えたCROWN(=王冠)的な生き方です。
誰よりも高いものを目指して生きる、いわゆる勝ち組を目指す発想です。
でも、皆が王様を目指す生き方をしていたら疲れてしまいます。
一人ひとりが伸び伸びと、自分らしさを大切にしながらうまく社会と付き合っていくためにも、
CLOWN的な発想なり生き方なりが見直される時が来ているのではないか。
そう塚原さんは問いかけます。

無論人間にはLとRの両面があります。ですから、LとRの間を、文字通り右往左往しながら、
しかし笑いながら生きていくということが自分自身のソーシャルセンシングのスタイルではないか。
そう言って、塚原さんは話を終えました。

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