公開ラボ@シブヤ大学
その3:「うんち」からの気づきと出会い

「『うんち』からの気づきと出会い」
王子ネピア、「千のトイレ」プロジェクト責任者 今 敏之さん

「便所紙屋です」

職業を聞かれたとき、今さんはこう答えるそうです。

「便所」はもともと仏教から来た言葉。「便利な所」という意味だそうで、
そんな由来を持つ「便所紙屋」という職業に非常に重みを感じていると言います。

 

-研究テーマは『うんち』

そんな今さんは、便所紙屋のDNA(ゲノム)は何か、便所紙屋として社会に何ができるか、
社会とどう関われるかをずっと考えてきたと言います。
そんな中で、今さんが見出したテーマが「うんち」でした。

衣食住の食の中に排泄があり、住の中に便所があり、その真ん中に「うんち」がある。
そんな便所紙屋のゲノムでもある「うんち」を研究することが、
お客さんとのコミュニケーションや商品開発にもつながるのではないか。
そう考え、「うんちを研究しようよ」と社内で言い続けてきました。

(写真)シブヤ大学提供

-研究テーマが導いた出会い、気付き

そんな折、
「同じようなことを言っている人がいるよ」と紹介されたのが、日本トイレ協会の加藤さん。
意気投合した二人は、小学生を対象とした「うんち教室」という取組みを協働で始めます。

うんち教室の背景にあったのは、男の子が小学校でなかなかうんちができないという問題でした。
見つかると恥ずかしいから、男の子は学校でうんちができないのです。
うんちは健康と直結する重要なことであるはずなのに。

うんち教室では、一人一人の小学生に粘土でうんちの形のペンを作ってもらい、
うんち日記をつけてもらうそうです。同時に、いいうんちをするためには、水分をとったり、
適度な運動をしたりすることが大事だということを学んでいきます。
そうやってうんちに親しんでもらいながら、いいうんちとは何かを学んでいくと、
はじめは「うんち汚い!」と言っていた子供たちが、うんちを好きになって、
学校でうんちにいけるようになるのだそうです。それどころか、いいうんちをしようと、
大嫌いだった野菜を食べられるようにまでなる。すると、子どもが野菜を食べるようになったと、
お母さん達から感謝の声が届くようになる。

そんな子供の行動変容を目の当たりにして、
「便所紙屋である自分たちも社会のためになれるのではないか」と思うようになった、
と今さんは言います。

そんな折、うんち教室の取組みから、ユニセフと出会い、
「世界の140万人の子供が、トイレと水の環境が原因で亡くなっている」ということを知ります。
これはまさに便所紙屋の仕事ではないか。
そう思った今さんが新しく始めたのが「千のトイレプロジェクト」でした。

「千のトイレ」は、東ティモールに、トイレットペーパーの売上の一部を寄付して、
毎年、千の家庭用トイレをつくるというもの。
アジアで一番若い国、東ティモールでは、トイレの普及率は農村部で35%と非常に低く、
5歳未満児童の死亡率が1,000人あたり130人と、
多くの子どもが衛生状態の悪さを理由に亡くなっていました。

千のトイレプロジェクトを始めたところ、
2009年には5歳未満児の死亡率は1,000人あたり69人へと半減。
現地の人たちの暮らし向きも確実に良くなっており、表情も明るくなったそうです。

そうやって人の気持ちにまで変化が訪れたことを知ったとき、
自分達のやっていることに大きな意味を感じたと今さんは言います。

http://1000toilets.com/

 

-関わり合う、変わり合う

いわゆるコーズリレーティッドマーケティングの形を取っているこのプロジェクト。
これまでに6万通あまりの応援メッセージが消費者から寄せられているそうです。

また、開始当初は懐疑的な意見が多かった社内でも、今では80%以上の社員が「誇れる」、
「やや誇れる」活動として千のトイレプロジェクトを見ているとのこと。

東ティモールの人たちと関わり合うことで、
東ティモールの人達の暮しや表情が変わるだけでなく、
日本の消費者や社員の考え方にも変化が生じているのです。
冒頭に井上が述べたとおり「関わり合うと、変わり合う」のです。

「うんち」というテーマと出会ったことで次々と新たな出会いに開かれ、
新たな人々との関わり合いの中で気づきや変化へと導かれていった今さんは、
自分にとってソーシャルセンシングとは「出会い」だと言って、話を終えました。

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