公開ラボ@シブヤ大学
その6:ものの背後にあるもの

「ものの背後にあるもの」
Glyph.代表 柳本 浩市さん

モノの背後には何があるのか。
どのようなモノの見方をすればそれが見えてくるのか。

幼少時からの非凡なエピソードの数々に会場がどよめく中、
柳本さんは淡々とお話をしてくれました。

-カテゴリーからリンクへ

私たちはいろんなカテゴリーを持って生活をしている、と柳本さんは言います。
経済であったり、デザインであったり、コミュニティであったり…。
本来は全部横につながっているはずなのに、
そういうカテゴリーごとでものごとを考えていくようになってしまっていて、
これが先入観のもとになっている。

柳本さんの頭の中ではカテゴリーの壁はほとんどなく、
全てのものがリンクでつながっているそうです。
全てのものがリンクしているというのはインターネットと同じ形で、
これからはますますものごとをカテゴリーではなく
リンクで捉えることが重要になってくるはずだと柳本さんは言います。

ちなみに、このような考え方のきっかけを作ったのは、
3歳の時にたまたま雑誌で読んだ植草甚一のジャズ批評だったそうです。
ジャズ批評なのにジャズのことが一言も書いていない。
でも批評としてきちんと成立しているのは、
植草甚一にとっては全てがつながっているからだ、
と若干3歳の柳本さんは思ったと言います。
あまりの早熟ぶりに会場がどよめきに包まれました。

-ヒトとモノとのつながり

6歳の時の「メイドインUSAカタログ」との出会いも衝撃的だったと言います。
夢の存在だったアメリカの商品を一冊のカタログにして紹介したものですが、
そこでは例えば501という品番でリーバイスのジーンズのことを紹介している。
そのこと自体も当時としては珍しかったのですが、501というジーンズは、
洗うと縮む、その縮むというのを楽しむんだ、というようなことが書いてある。
つまり、どうやってモノと付き合うかということが紹介されていたのです。
それまで、モノをモノ単体として考えていた柳本さんは、これをきっかけにして、
どういうふうに付き合うとモノに愛着を感じるか、
ということを考えるようになったと言います。

小学生の時には、洋服のタグをスケッチし、何色が使われているか、
なぜその色なのかを調べたり、スニーカーをスケッチし、
そのカラーリングの移り変わりをまとめたりしていたそうです。
そうすると、色にも時代性があることなんかがわかる。
そういうことを通じて、
モノがいかに時代や文化と結びついているかを考えてきたと言います。

-モノを通じて社会を感じ取る

そうやって目に見えるモノだけでなく、モノと人の関係や、
モノの背後にある時代や社会を幼少の頃から考え続けてきた柳本さんは、
同様に、人の顕在意識よりも潜在意識や無意識のほうに関心を持っています。
人の意識の96〜97%は潜在意識だそうで、そうなると顕在意識で話すことよりも、
無意識に感じていたり、やっていたりすることのほうが
圧倒的に重要ということになるからです。
柳本さんが最後に紹介してくれた小学生を対象にしたワークショップは、
まさにこの無意識の行動を可視化するための試みと言えます。

ワークショップでは、小学生達にスーパーの売場を観察させて、
人がモノを買うまでにどんな行動をとるのかを、
例えば、「手に取る」だったら「A」とか、
「じっくり見る」だったら「B」と記号を決めて、
一連の行動を記号で順番に記録させます。
そして、その記号ごとに割り当てた色のシールを売場の地図に貼ってみると、
お客さんがどこでどういう行動をしたかが一目瞭然でわかるようになる。
こうやって無意識の行動を浮かび上がらせることで、
売場の構成や什器のデザインをどうするかといったデザインが生まれるのです。
この時重要なのは、
なぜお客さんはこういう行動をとったのかを小学生に考えさせることだと言います。
「なぜ」を考えさせ、仮説を作らせて、実際に検証する。
ちゃんとやり方を教えてあげれば、それは小学生にだってできることなのです。

柳本さん自身がこの「なぜ」を追求し続けてきた人でした。
その根底にあるのは好奇心だそうです。
そして、
この「『なぜ』を追求するための好奇心」が
自分にとってのソーシャルセンシングではないかと言って、お話を終えました。

(写真:シブヤ大学提供)

コメント