公開ラボ@シブヤ大学
その2:くらしの目線

「くらしの目線」
無印良品 くらしの良品研究所コーディネーター 土谷貞雄さん

土谷さんは建築家で、無印良品の家づくりに関わっていました。
現在はフリーランサーとして、無印良品や他の企業のWebコミュニケーションに加え、
企業の垣根を越えた研究会のコーディネートなどもされています。

 

-「本当に大事なもの」を共有する

無印良品が家をつくりはじめた当初、なかなか売れずに苦戦していたそうです。
そこで、「くらし」とは、また、「家」とは何なのかについて調べてみようと思い立ち、
Webでアンケートを行ってみた。
これがWebコミュニケーションに入っていったきっかけとのこと。
以来、Webコミュニケーションや研究会を通じてずっと考えているテーマは
「自分たちのくらしを自分たちで考えよう」ということ。主語を企業にすると
「ユーザーと一緒にくらしを考える」と言い換えられるかもしれません。

(写真:シブヤ大学提供)

お話して頂いた無印良品のWebコミュニケーション、
アンケートやコラムを通じたコミュニケーションは、
まさにユーザーと一緒にくらしを考えるということの具体例でした。

例えば、「洗濯機はどこに置くのでしょうか?」というコラム。
洗濯機はお風呂の近くに置かれることが多いですが、
でも、「本当にそれでいいのでしょうか?」と聞いてみる。
キッチンの近くにあってもいいのではないかとか、リビングでもいいかもとか、
絵も交えて提案しながら問いかけるのです。
すると、その日のうちに投稿がいっぱい、1日100人ぐらい返って来るのだそうです。
それを丁寧に、全員に返信をしていく。
翌週には、みんなの意見を踏まえて改善してみました、
という格好で「続・洗濯機はどこに置くのでしょうか?」というコラムを書きます。

このようなやり取りを1つ1つ丁寧にしているうちに、Webサイトが盛り上がってきて、
活発に意見が交わされるようになりました。
そして、その頃から段々と家が売れるようになってきたのだそうです。

この頃から、「買って欲しい」というメッセージを伝えるのではなく、もっと奥深いところ、
一人一人にとっての「本当に大事なもの」をどうやって共有していくかということを、
深く考え始めたと言います。

 

-境界線に問い続ける

しかし、「本当に大事なもの」は目には見えない。

見えないものを共有するために土谷さんが大切にしているのは、
「本当に大事なもの」の境界線にいろんなものを投げかけることだと言います。
そうするとどこが境界線なのかが分かってくる。
そうやって境界線に問い続けることで浮かび上がってくる像が「本当に大事なもの」
なのではないか。

そういう思いから書かれたのが例えば以下のコラム達。

モノの持ち方やモノを捨てる勇気について書いた「モノを持たない暮らし」
下り坂の時代における豊かさについて書いた「下り坂を楽しむ」
人と人とのつながりについて書いた「コミュニティを考える」

 

http://www.muji.net/lab/living/110119.html

 

どれも「くらし」の中で「本当に大事なもの」は何かを浮かび上がらせるために、
境界線への問いかけとして書かれたコラムです。

大切なのは、答えを出すことよりも問い続けていくことだと土谷さんは言います。
どうしたら良い問いをつくれるか。そして、問いを投げることを通じて、考えるもの、
浮かび上がってくるものを感じる心を持つ。
そして、感じたものを形にして、企業の中に戻していく。

そのプロセスがソーシャルセンシングのひとつのヒントなのではないかと
土谷さんは話を締めくくりました。

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