現場感を取り戻すために

結局、現場感とは関わり合いの関数なのだ。
人やモノや環境と(=社会や世界と)どれだけリアルに関わっているかが、現場感を決するものとなる。であるならば、現場感を取り戻すには、社会や世界と関わり合う場面を増やすことが必要になるはずだ

そのために何をすべきか。

一つは、会社とは別に社会や世界(以下、「社会」と人くくりに呼ぶ)と関わり合う場を持つことだ。業務とは離れてボランティア活動をするとかNGO/NPO活動をするような場合がこれに当たる。最近急速に普及しているソーシャルメディア上での関わり合いなども、企業色が薄い場合は、ここに含まれるだろう。

もう一つは、社内外の人間がフランクに関わり合えるような縁側(軒下)的な場を持つことだ。ボランティア活動のように業務と完全に切り離してしまうのではなく、業務と深い関係を保ちながらも、社内と社外の人間が自由に関われるような場を持つのである。例えば、社外の専門家を交えての研究会のような活動がこれに当たるだろう。ただし、政府の審議会
のような、フォーマル過ぎる場にしてしまっては意味がない。本音で語り合えるような、自由でフランクな雰囲気を保つ必要がある。でないとリアルな関わり合いは生まれないからだ。最近では、商品の企画開発にウェブを通じて多くの人々を参加させるオープンイノベーションややコクリエーション、或いはクラウドソーシングと言われる手法が注目されているが、これも会社と社会の境界線上の、縁側的な場でリアルな関わり合いを生むやり方と言えるだろう。

写真:シブヤ大学提供

最後に、会社自体を社会化する、つまり、社会の縮図としてリアルな関わり合いの場とする、というやり方もあるだろう。「日本的経営」ともてはやされた頃の日本企業の多くは、家族的なつながりや一体感を有していた。まさに会社共同体であり、べたべたの人間関係がそこにはあった。しかし、今の会社の多くは、どんどんドライになっている。家族の生活を犠牲にしてまで会社に奉仕させるような従業員を社畜化する会社共同体のあり方は問題だが、個人的な交流がほとんどないドライ
過ぎる組織も問題だ。最近は「会社は喜怒哀楽を出す場ではなく、淡々と仕事するための場。本当の自分はプライベートでしか見せない」という人が増えている。公私を使い分けるのは現代社会においては賢い生き方なのかもしれないが、せっかく多くの人間が集まっているのにリアルな関わり合いがないというのは、こと現場感の醸成という観点からはもったいない話である。

従って、社内において社員同士がフランクに関わり合えるような場をつくることが大事になってくる。社内用ソーシャルメディア(社内TwitterであるYammerなどが有名)などを活用してオンライン上でのコミュニティを立ち上げたり、部署横断的な勉強会を開催してリアルな関わりを深めていくといったやり方が有用だろう。

www.yammer.com

いずれにせよ、現場感を取り戻すには、いかに関わり合うかが問われてくるのである。その手法は上記に限定されない。その企業なりに意味のあるやり方を見つけていけばいい。どんなやり方でもいい。意味のある関わり合いを生み出していくことが重要なのだ。(文/井上岳一)

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